途切れない来客! 人気の秘密は、地元愛の伝わる丁寧なコミュニケーション
2016年、おいらせ町にオープンしたとある産地直売所が人気を集めています。
その名も「ファーマーズマルシェ hitotsubu(ひとつぶ)」。
取材時も途切れることなく多くの人々が訪れており、スタッフとお客さまが積極的にコミュニケーションを取っている姿が印象的でした。
全2回でお届けする【「食」から移住を考える】。
2回目の今回は、hitotsubuにたくさん人が集まる理由を調査してきました。
見ているだけでわくわくする「hitostubu」の珍しい野菜
おいらせ町の「鶉久保(うずらくぼ)」というエリアに位置しているhitotsubu。
目の前の通りを北に歩いていけばすぐ隣の三沢市に入ります。そのためおいらせ町だけでなく三沢市からもお客さんがやってくるのだそう。
クリーム色の外観が目印のかわいらしい一軒家は、私たちがイメージするいわゆる「産地直売所」とは少し異なるかもしれません。
取材時はちょうどハロウィン前の10月中旬。入口にはピンクパンプキンという種類のかぼちゃが販売されていました。
店内にも珍しいかぼちゃがずらっと並べられており、そこだけで一つのコーナーができるほど。
トランペット状のかぼちゃ、細長いスイートポテトと呼ばれるかぼちゃ、食用ではないハロウィンの飾りつけ用かぼちゃ……など、種類もたくさん。
秋といえばおなじみの「栗」も。普段、スーパーやコンビニではめったにお目にかかれないイガが付いています。
小さいころ、私にとって八百屋さんや果物屋さんは身近な場所でした。大好きなイチゴが並んでいるということは、もう冬だなぁ……なんて店頭に並べられている商品を見て、自然と季節を感じていたものです。
ところが、東京ではスーパーかコンビニで買い物を済ませてしまうことがほとんどで、めっきりこうした専門店からは足が遠のいていました。
お店にはじゃがいもや大根といった身近な野菜だけでなく、聞きなれない名前や初めて見るような珍しいものも。
それぞれに丁寧に解説が書かれていて、それを読むだけでも興味がわいてきます。
加工品も、手づくり感とぬくもりが伝わるかわいいものがいっぱい
それ以外にも、野菜や果物を加工した商品もたくさん並べられています。
ガーデンピクルスは、女性好みで手に取りたくなるようなパッケージ。
はちみつやジャムなどもさまざまな種類があり、お土産にもぴったりです。
「地獄みそ」や「ちょいちょいしょうゆ」といったネーミングも目を引きます。
私は自分用に「ちょいちょい味噌」を購入したのですが、白米とともにあまりのおいしさにすぐなくなってしまいました……! これを機にお取り寄せしたいほど。
そして、hitotsubuの運営にも携わっており、自身も米農家である古舘さんが作るお米や、お米から作られたシフォンケーキなども販売されています。
このシフォンケーキ、ふわふわというよりもぷるぷるした食感で、一口食べた瞬間に溶けていく感覚になるんです。プレーンはもちろん、ほうれん草味もクセがなく食べやすかったですよ。
もちろん、青森といったらこちら!りんごも販売されています。
現在、ここで販売している農家さんは30軒ほど。
「夏しか収穫できないなど季節ものも多くありますが、ここにはおいらせ町近辺の地場産以外は置いてないんですよ」とは運営者のひとりで、店頭に立ち接客にもあたっている中浦さんです。
良いものを作って終わりではない。「伝える」ことの大切さ
取材時、お店には客足が途絶えず、みんな珍しい野菜を手に取りながら調理の仕方やおすすめの食べ方までを中浦さんに質問していきます。
元々農業ではなく、販売職に従事していたという中浦さんは、おいらせ町からも近い青森県十和田市出身。十和田市は、野菜やお米を作るのにおいらせ町よりも良い条件が揃っている地域だといいます。
興味を持ち野菜の作り方にを学びながら感じていたのは、せっかく農作物を作れるプロがいて、作れる豊かな土壌があるのに、売り方や適した食べ方が伝えられていないのでは?という思いでした。
そこで声を掛けたのは、米農家で青森県内でお米のパンを作った第一人者でもある古舘さん。古舘さんが作り、中浦さんが売る。その二人三脚でこのhitotsubuが始まりました。
hitotsubuの由来は、「一粒の種から人の手を介して作物ができ、その作物をお客さまに提供し、その作物を喜んでもらえたらまた作って……、その“一粒”からどんどん繋がっていく」という思いから来ているそう。
そして、「マルシェ」という言葉にも“安い”という印象を持たれがちな「産直」、「直売」という表現を使わず、“海外の市場”のようなものをイメージしてもらいたかったのだとか。
「農家の方々は作ることはとても上手で、自分たちが作っているものを極めている。でも、それがお客さまに伝わらなければ、みんな安い方に流れてしまうし、また同じ農家から買いたいとも思ってもらえないんです」と中浦さん。
「農家からも情報をもらい、食べ方や調理方法を説明できる人がないと先に繋がりません。“作る人”と“売る人”、お互いがお互いのことを理解しつつ、役割分担をする。そしてお店での見せ方を考える“プロの売る人”も大切です」と中浦さんのおっしゃるとおり、店内は工夫にあふれています。
その一つは、そのときに感じたことや情報、表現を描くことを心がけているのだというお手製のPOP。
お店では珍しい野菜も多く取り扱っているため、食べ方が分からないと手に取ってもらえないことも。食べ方や食材の使い方を付けることで、親しんでもらえるようにしているのです。
また、POPを眺めていて気が付いたのは、食用だけではなくケーキの飾り付け用のお花など、見た目を彩るために使うものも売られていること。
「食卓が映えることで、会話も生まれる。ただ食べるだけでなく、食事を色々な角度で楽しんでもらいたい」と中浦さんは話します。
もう一つの取り組みは、イートインやテイクアウト用のメニューを用意していること。
これは、野菜が苦手な小さい子どもをはじめ、どんな形でも食べてもらえれば、という考えがあってのこと。そこから名前を知ってもらい、リピートしてもらう、という伝えるための手段なのです。
「このお店に来る人は30代ぐらいの若いお母さんたちも多い。お子さんたちが野菜を食べないと悩んでいる方も。その方たちの手助けになれば」と、ランチメニューだけではなく、ルバーブやカシスなどのシェイクやチコリソフトなどのスイーツ類も充実しています。
私は、「ガリライス」と「チコリシェイク」をテイクアウトしてみました。新鮮な野菜はシャキシャキしていて、お肉は柔らかくてジューシー。そして、地元のお米も美味!
実はこの「ガリライス」、本当の名称は「ガーリックポークのサイコロステーキがたっぷりゴロゴロ入ったチャーハン風ライス」なのだとか。
「POPもメニューも思いが強すぎて、ついつい名前が長くなってしまうんですよ(笑)」と笑いながら教えてくれた中浦さん。
一般的な八百屋さんやスーパーに比べたら、1人当たりの滞在時間がきっととても長いであろうhitotsubu。みんな新しい食材に出会ってはPOPの解説を読み、それでも足りずに質問する人が圧倒的に多いように感じられます。
そんなお客さま一人一人に対応し、作り手の思いを代弁してくれる中浦さん。
中浦さんへのインタビューをとおして、私もお店の思いを受け取り、たくさんのお土産とともに地元へと帰ってきたのでした。
記者の紹介
水野 千尋
フリーライター&編集者。旅行ガイドブックの出版社を経て、現在は音楽事務所でバンドやアーティストのマネージャーを務めながら、フリーランスとして旅に関連する媒体の取材やライティング、タイアップ広告のディレクションなども行う。得意分野は東南アジア(特にラオス)、海外ひとり旅、女子旅など。